大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台家庭裁判所石巻支部 昭和63年(家)438号 審判 1990年2月13日

主文

1  本籍宮城縣桃生郡○○町○○字町××番地ノ×戸主池田忠助の改製原戸籍中孫農の身分事項欄中「父ノ家ニ入ルコトヲ得サルニ因リ」の記載及び父欄「奥山孝夫」の記載を抹消することを許可する。

2  本籍宮城県桃生郡○○町○○字町××番地×筆頭者池田治子の除籍中男豊の父欄「奥山孝夫」の記載を抹消することを許可する。

3  本籍宮城県桃生郡○○町○○字町××番地×筆頭者池田豊の戸籍中父欄「奥山孝夫」の記載を抹消することを許可する。

理由

1  申立ての要旨

申立人は亡奥山孝夫(昭和63年3月19日死亡、以下「孝夫」という)の妻であり、孝夫の戸籍に利害関係を有する。

池田豊(昭和17年11月14日生まれ、以下「豊」という)は父孝夫及び母亡池田治子(昭和62年1月29日死亡、以下「治子」という)間の子として戸籍に記載されているが、孝夫は豊の出生届をしたり、認知をしたことはない。

そうすると、孝夫と豊の間に法律上の父子関係は存在しないから、戸籍の記載は事実に合致しない。

よって、戸籍法113条により戸籍の記載を事実に合致させるため、本件申立てをする。

2  当裁判所の判断

(1)  家庭裁判所調査官作成の調査報告書及びそのほかの本件記録に含まれる資料に基づく事実認定と法律判断は次のとおりである。

ア  申立人は孝夫の妻であり、孝夫の戸籍に利害関係を有する。

イ  豊の出生届は宮城県桃生郡○○町役場に保管されているところ、その謄本によると、上記出生届には父が孝夫、母が治子である旨の記載があるものの、届出人は治子となっている。

当時の戸籍事務管掌者はこの出生届により孝夫が豊の父である旨の戸籍の記載をしたのであるが、この出生届は届出人が治子であることからして庶子に非ざる子の出生届(大正3年戸籍法72条2項後段)であり、孝夫が豊を認知する効力はないのでこの出生届により孝夫と豊の間に父子関係が生ずることはない。したがって、この出生届により孝夫が豊の父である旨を戸籍に記載したのは当時の戸籍事務管掌者の過誤である(仮に、豊の出生届の届出人が孝夫となっていれば、この出生届は庶子出生届((同法72条2項前段))となり、孝夫が豊を認知する効力がある((同法83条前段))から、孝夫を豊の父として戸籍の記載をすべきことになる。本件の過誤は届出人が治子なのに、庶子出生届であると錯誤したことに帰する)。

ウ  生前に孝夫が豊を認知したり、あるいは認知の裁判が確定したことはない。

(2)  以上によると、孝夫と豊の間に法律上の父子関係は存在しないから、孝夫が豊の父である旨の戸籍の記載は事実に合致しないといわなければならない。

よって、戸籍法113条により本件申立てを認容することとして(なお主文3項の戸籍訂正の許可は申立人が明示的に求めているものではないが、主文1、2項の戸籍訂正の許可と一体をなすものであるから、これも本件申立ての趣旨に包含されるものと考える)、主文のとおり審判する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例